論文の読み方と構成を覚え専門性の高い発信を。自分なりの解釈が大切
以前の記事では、『一次的情報だけの解釈を鵜呑みにする危険性』と『エビデンスベースでトレーニング指導をする重要性』の2本立てで投稿しました。
今回の記事を読む前に合わせてこちらの記事を読んでおくと内容の意図が分かりやすくなっています。
今回は、『実際に論文を自力で読むための方法とそれぞれのセクションの注意点や詳細』を踏まえて話していこうと思います。
かなり長いですがここまでしっかり説明している内容も中々ないと思うので根気強くお付き合いください。
日にちを分けて読むのもアリだと思います。
論文の構成
一般的な論文の構成としてはおおよそこのような構成の方が多いと思います。
ただし、論文レビューに関してはこの構成に当てはまらない記事の構成となっているので注意が必要です。
ここからはそれぞれのセクション毎に説明していきます。
Title(題名)
これだけでは、まだ肝心な内容がわかりません。ただ題名からもある程度の予測は出来るかと思います。
注意する点としては、題名は著者による主観的観点(バイアス)が介入している事を頭に置いておきましょう。
そしてタイトルのワードを見てどの研究論文なのかを見極める
あくまでも可能性として高いのであって絶対ではありません。
- 差を調べる研究
・『comparison』
・『difference』 - 相関関係を調べる研究
・『correlation』
・『relationship』 - 効果を調べる研究
・『effect』
Author(著者・所属)
書いてある場所は題名の下もしくは最後のページの後ろに書いてあるジャーナルもあったりします。
最近だと複数の研究者による論文も多くなっています。ここでの格付けとしては一番最初に記される名前の著者がこの研究の中心人物となります。
Abstract(要約・概要)
論文を解釈する上でやってはいけない一つとして、abstractだけを読み、解釈してしまうことです。
これは結構な人がやりがちなパターンだと思います。title(題名)同様にこちらも著者のバイアスが高いのでresult(結果)やmethod(方法)まで深掘りして判断していくのが賢明です。
abstractまでは検索エンジンを使えば無料で読めることもあるので、こういった解釈が生まれてしまうのかもしれません。
Introduction(緒元・序章)
ここでは3つの内容が主に記されることが多いです。
- 研究背景(問題提起)
今回の研究をするにあったての経緯 - 先行研究の概要
類似した研究を行なってきたものの特定の部分で課題があったため今回の研究で解明しようとするプロセス - 研究の目的と仮説
1.2を踏まえて実験前の研究者における考え
Methods(方法)
論文を読む時はここはしっかり読み込む方が良いでしょう。それぞれのカテゴリーでも細かく気を付ける部分があります。
〜目次〜
1.subject(被験者)
①人数(sample design)
②性別
③年齢
④競技歴・トレーニング歴
⑤身体的特徴
2.design(研究デザイン)
①差を調べる研究
②相関関係を調べる研究
・相関係数(ピアソンズアール)
③効果を調べる研究
・RCT(ランダマイズコントロールトライアル)
・介入群と対象群の関係
・独立変数と従属変数
3.procedure(手順)
4.statistical analysis(統計分析)
・統計手法
・P値(帰無仮説)
1.subject(被験者)
ここでは被験者の特徴が大事になります。
①人数(sample design)
②性別
③年齢
④競技歴・トレーニング歴
⑤身体的特徴
★『外的妥当性』
①人数(sample design)研究対象の母体に対しての人数
※国立スポーツ科学センター(JISS)トレーナーからの助言として、信憑性を判断する被験者の割合としては、
・差を調べる研究 ≧10人
・相関関係を調べる研究 ≧30人
・効果を調べる研究 ≧10人
とのことでした。私もセミナーを受講してからは、これを目安として自分なりに考察しています。
②性別
これまでの研究は、ほぼ男性が被検対象。理由は男女間の内分泌における筋力差などが関与しているのではないだろうか。少数ながら症例とし存在し、そして今後は女性の介入も増えるであろうと考えるため男女での実験がある場合は以下に注意をおくのがいいだろう。
『男女間の人数の平等性』
③年齢
これはどんなクライアントor選手に当てはめるかによって状況が変わってくる。
例えば研究内容が
トレーニング歴なしの50代40人を2つのグループに分け、
週2回の全身ウエイトトレーニングを3ヶ月するグループと週2回の内、上半身と下半身それぞれ分けてトレーニングをするグループで研究をした結果、全身でウエイトする方が筋力が20%も有意になった。研究があったとします。
それを競技選手や20代に当てはめるかと言えばそうではなくなるんです。
もっと細かく言えば現在もトレーニングを継続している50代にも同じことが当てはまるかと言われればこれも難しいでしょう。トレーニングに精通している人であれば、筋トレ始めたては神経系の動員や発火頻度が高まりやすいため筋力が向上しやすいという背景があるためです。
④競技歴・トレーニング歴
よくある間違えとして、
競技歴長い=トレーニングが上手い というのは話が変わってきます。
競技とトレーニングはまるっきり別として考える必要があるからです。
ですので、競技者として優れていてもトレーニングが未経験であればトレーニングの介入は初心者と同様の流れで指導になるということです。
ただし、特異的な面を持つウエイトリフティングやパワーリフティングなどは、そもそもの競技でウエイトを上げるのが目的ですから、この場合は競技歴=トレーニング歴という扱いでも問題はないと思います。
⑤身体的特徴or生理学的特徴
これは、身長・体重・VO2MAX・1RMなどの部分のことを指します。
外的妥当性
subject(被験者)の中の①〜⑤までを元に『その研究結果が他のグループにどれくらいあてはまるか?』を見極めるのがこの『外的妥当性』になります。
今自分たちが直面している課題がどのくらいの規模で年齢で性別で競技や運動歴、そして容姿がどれくらいなのかをトータルした上で研究モデルとの整合性を合わせなければいけません。
ですので論文を読む意味としては、特定の人たちに対して外的妥当性を高めることがとても重要になってくるのです。
2.design(研究デザイン)
①差を調べる研究
異なるグループの差or同じグループで異なる事をやった時の差
※この研究では因果関係までは確定できない。
②相関関係を調べる研究
【相関関係とは】
ある一つの要因が大きくなったり小さくなったりすることにより、
もう一つの他の要因が大きくなったりしているのかどうか。
上の図は相関係数(ピアソンズアール)と言って、−1〜1まで変動する。
・プラスなら正の相関関係
・マイナスなら負の相関関係
と絶対値が『−1or1』に近づくほど相関関係が強いという見方になります。
つまり研究デザインとしてはエビデンスレベルの信憑性が高いという事です。
※この相関関係を調べるデザインも相関があったとしても因果関係があるかは別になります。
③効果を調べる研究
この研究は因果関係を調べることが出来る内容です。
例として、大学生チーム野球部100名にPre Testをまず被験者全員に実施。実施項目は、50m走としましょう。
その後、介入群と対照群をランダムに2つのグループに分けて
・介入群グループは野球とトレーニングを実施
・対照群グループはいつも通り野球のみを実施
そしてまた、Post TestとしてPre Testで実施した50m走を計測します。
その結果どちらの方がPreーPost間で効果が大きかったのかを調べる方法です。
ランダムに割り振ることで、被験者間の平等性が確保され結果としては均等性の取れたものになるという研究策です。
これを『RCT:ランダマイズドコントロールトライアル』と言います。
〜対照群の介入はなぜ必要か?〜
図を見ながら解説していきたいと思います。
図①
例として、『俺は走り込みをしたら成績がよかった!』という人がいるとしましょう。
確かに図を見る限り向上はしているようです。
『だから走り込みをした方が成績が伸びるからやってみなさい』と言われて実践してみることにしました。
図②
結果、走り込みを行なったことで走り込みをする前よりも低下していました。
つまり何が言いたいかというと、
そのために介入群と対照群の2つを儲けることでより正確に変化量を判断することが出来ます。
図③
介入群<対照群
介入群>対照群(どちらも低下)
介入群>対照群
独立変数と従属変数
これは何を意味するかと言うと、
独立変数とは
ex) 1setと3setのベンチプレス→『Set数』のことを独立変数(原因)
従属変数とは
ex) 1setと3setのベンチプレス終了後→『筋力』のことを従属変数(結果)
研究のクオリティーは『独立変数が一つに絞られている方が高い』とされている。
例えば、2つのグループで同じ重量で1setと3setに分けて筋力を比較する場合は、変数(ここで言うとset数)が一つということになります。
それが2つのグループで『1RM80%で1set』と『1RM60%で3set』それぞれの筋力を比較するとなると変数が(set数と強度)2つになってしまうのでこの場合は、研究結果としての信憑性は低いと判断されてしまいます。
ですので、なるべく独立変数は一つに絞られている研究を気にしてみるといいでしょう。
この辺の内容を詳しく知りたいという方は、一度こちらの本を参考にしてみると良いですよ。
3.procedure(手順)
ここでは、研究の流れを事細かい内容で説明されています。内容としては、今後同じような研究をする人等に対しても手順が理解できるように記されているセクションになっています。
4.statistical analysis(統計分析)
そもそも統計分析をなぜするのか?
例として先程の『効果を調べる研究』で用いた大学生野球部で話しをします。
極端な話し可能であれば、一つの大学ではなく世界の大学野球部(母体集)を対象に研究が出来れば統計分析は必要はないと言うことです。
つまり統計分析を行う理由としては、
・全ての人を調べるのは難しい。
・母体集から一部を被験者として選んで調べる
・被験者の結果を元に母体集での結果を推測する。
これらの事情があるために行っているということです。
統計手法
・差を調べる研究
・相関関係を調べる研究 Pearson’r(ピアソンズアール)
・効果を調べる研究 t test・repeated measures ANOVA
私も詳しくは統計方法の内容までは知りません。これから論文を書く人は覚えておくと良いかもしれません。
P値とは?
『差・相関関係・効果が無い。帰無仮説が正しい確立』のことを言います。
帰無仮説 差・相関関係・効果が無い
対立仮説 差・相関関係・効果が有る
これだとどちらとも言えない。
差・相関関係・効果が有りそうだ。
でも、有意と判断出来ない。
差・相関関係・効果が有る。
『P値が0.05(5%)未満であれば、研究の世界で統計学的に有意と判断される。』
この設定値に明確な理由は無いそうです。
ここで注意が必要なのは
『P値が小さい=差・相関関係・効果が大きい と言う訳ではないということ。』
例えばP値が0.001であったとしても、研究規模(被験者数の数や期間等)にもよって変動するので、
ここでは、差・相関関係・効果の大きさではなく、『差・相関関係・効果の有無を判断する』名目になります。
Result(実験結果)
実験結果では3つの種類の報告があります。
①Figure(図)
②Table(表)
③Text(文章)
著者が一番強調したい部分の結果は、Figure(図)でまとめられます。
そして次にTable(表)と続きText(文章)となります。
と言うことは読者の視点で考えるならば、まずはFigure(図)から実験結果を見ることが必要です。
Discussion(考察)
discussionは論文の中で一番文章のボリュームが多くなるセクションです。
結果の解釈と議論
研究のリミテーション(制限・限界)
これらの項目が書かれています。
Conclusion(結論)
論文によっては、ディスカッション内に書かれていることもある。
ここも研究内容に対して批評的に読むことが必要です。
Reference(参考文献)
最後のページに論文を執筆するために引用した過去の論文が掲載されている。
自分が気になるカテゴリーの内容はここのリファレンスから特定のテーマについて読み進めていくのが一番専門性としては高まる方法かなと思います。
ここまででようやく論文の構成と詳細について説明してきました。
最後は、『著者の主観的部分に偏るセクション』と『論文の読む順番』について説明していきます。
著者の主観的部分に偏るセクション
分かりやすいように画像を見ながら説明していきます。
赤文字で書いてあるのが『著者の主観が入りやすい』セクションになります。
研究をする分、この内容では証明出来ないような主張も含まれるのが現実です。
なので必ず論文を読む際は、『批評的に見る』ことがとても大事になってきます。
論文の読む順番
この読む方法は、セミナーを受講した際にお教えて頂いた方法です。
以前は①title ②abstract ③result ④method ⑤conclusionの流れだったのですが、conclusionは著者の主観が入るので先に批評的に見ておいてから、resultを見る方が良いかもとアドバイスを頂いたので、今は上記の流れで読んでいます。
そして読む力がついてくれば『methodとresult』のみで自分の視点で考察できるスキルが身につくそうです。
まだまだですが…
論文を読むにはそれなりの労力は必要になります。
それでも自信を持って発言できるようになるのであれば安いものではないでしょうか?
大変長くなりましたが、これから科学的知見から根本の情報を入手し、選手又はクライアントに向けてサービス提供を考えている方に参考になればなと思います。
何回でも見返せるように論文構成から詳細、そして読む順番と批評的に読むことについて話してきました。
是非フル活用してください。
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